グラン・トリノ』、観てきました。
初日、雨、レイトショー。観客は50人程。他の作品と比べて年配の方の比率が多かった気もします。


クリント・イーストウッド演じるウォルトは、偏屈な老人。朝鮮戦争の従軍経験を引きずり、定年まで勤めた自動車産業も斜陽。住んでいる街は嫌っている他人種の移民が溢れている。妻が亡くなり、子供や孫たちとの関係も上手くいっていない。一日中、愛車グラン・トリノを眺めビールを飲み続ける日々。
ある事件をきっかけに、嫌っていた隣家の姉弟に心を開く様になる。弟の方、タオ少年に人生観を教え、仕事を世話するウォルト。だが、タオにつきまとう従兄弟と不良集団。ウォルトはタオ一家を守るため、不良集団を脅す。そして報復を受け…。


物語の構成はクリント・イーストウッドが演じてきたウエスタンやバイオレンス物に近いです。最終的に彼は立ち上がるのですが、その選択はウォルトが生きてきた人生の深みを感じさせる物でした。
彼は昔からの友人たちとは軽口を叩き合い、笑顔を見せるのですが、若者や異民族といったギャップを感じる相手とは頑なに壁を作って生きています。遠慮無い程に差別用語をバンバン放って。そして自分の意志が通じない相手には銃を手に取ります。強い象徴としてのアメリカが彼のアイデンティティーであり、自分のテリトリーから異物を排除し、自分自身もテリトリーから決して出ていこうとはしない。彼が自分の庭の芝生を守ろうとした様に。
彼は隣家の姉弟と出会った事で、次第に変わっていきます。しかし、自分が関わった事で隣人に悲劇を招いたかもしれない。
最後に彼が選択した行動は贖罪なのでしょう。そして、意志の疎通を避け、力に頼ってきた事。それは古いアメリカの姿を重ねているのかもしれません。だから愛車グラン・トリノは、これから未来に生きる若い世代に受け継がれるのです。


この作品を観ている間、何度も泣きました。ここまで涙腺がゆるんだ作品も何年ぶりか。
でも、前半は細かい部分で笑わせる場面も多い。後半の展開で一気に物語が泣き展開に疾走していくのだけど。
ウォルトは隣人とは仲良くなれたけど、血縁者とは最後まで和解できなかったんだな。自分から電話をかけているので、歩み寄ろうとはしたんだけど、週末に電話をする前に最後の事件が起きてしまったからな。孫娘も最後まで変わらなかったし。
隣家のスーは明るくて利発で度胸もあって、彼女を孫娘の様に見ていたんじゃないだろうか。
犬も良かったね。
そうそう、エンドロールが流れる中、色々な場面を思い浮かべて反芻していた時、スーツを仕立て直していた理由が理解できた。後からジワジワ心に来ますね。


今年も4ヶ月が過ぎ、劇場、DVDでの再見、レンタルと、ある程度の本数の映画を観ました。現時点ではこの『グラン・トリノ』がベスト1です。私としては10点評価で10点。もちろん、多少の不満点はあるが、作品の評価を下げる程ではない。
しかし、ここ数年のクリント・イーストウッドは凄まじいね。ハズレだと感じた作品が無いもの。


蛇足として。字幕は戸田奈津子さんでした。まぁ、気になる部分は少なかったけど。車の中でスーがモン族の事を話している場面、ウォルトのセリフが戸田節だったくらい。でも、エンドロールが終わって余韻に浸っていた時に戸田さんの名前を出すのはやめてほしい。最初に表記してほしいよね。