「太陽を盗んだ男」

1979年作品。今からちょうど30年前ですね。
私は高校の頃、深夜に放送されていたこの作品を、原稿を書きながら観ていました。作品は途中からでしたし、意識も原稿の方に向いていましたが、所々に魅力を感じていました。で、数年後。大学の時、はっきりと憶えていませんがどこかの小さな映画館で上映されるのを『ぴあ』で知り、出かけていったのでした。


中学で理科を教える城戸誠は、生徒たちからも揶揄される無気力なダメ教師。生徒たちとのバス旅行中に、バスジャックに襲われた彼は、警視庁の山下警部に刺激を受ける。
やがて城戸は、警官から拳銃を奪い、東海村原発に侵入しプルトニウムを強奪。自室で原爆を製造する。
完成した原爆を手に、交渉役に山下警部を指名、城戸の政府への脅迫が始まる。


現在公開中の『ヱヴァ破』で、この作品の音楽が使われている。という訳で、アニメファン界隈で知名度の上がった感がありますが、若年層で実際に観た事のある人は少ないのじゃないか。
公開当時は高い評価を得てヒットした様だし、過去作を含めた邦画の人気アンケート等でも必ず上位に入りこんでくる。
ただ、やはり古い作品であるので、ストーリー的にリアリティの薄い部分や破綻した部分も目に付くし、演出面でも厳しい所がある。そして作品自体が2時間半弱という長尺なので、この作品の色が肌に合わない人には辛いかもしれない。


主役の城戸を演じるのは、当時人気絶頂期の沢田研二。時々男前な表情を魅せる事もあるが、この作品では基本的にダメ男の方向に演技をシフトしている。また、国会議事堂に潜入する時に女装し、脅迫電話時にオカマ言葉を使うのだけど、これらは沢田研二が『ドリフ』に出演した時のギャグイメージが重なってしまう。
同じ時期に松田優作主演の『蘇える金狼』や『野獣死すべし』という作品があるが、松田優作演じる主人公が暴力や欲望などの内なる情念を炎の様に漲らせていたのに対して、沢田研二演じる城戸は冷えきっている。何がしたいという欲も無く、衝動も無い。作品中で感情を出す場面もあるのだけど、それも城戸自身が感情的な自分を演じている様に見える。
家族や友人も恋人も無く、池上季実子演じるDJに対しても女として求める訳でも無く、政府に対しても脅迫するのが目的で、何を要求していいのか自分でわからない。山下警部と交渉の電話をする事と、自分の要求によって政府や警察が振り回される事だけが楽しい。その事が、城戸に初めて生きている事を実感させたのかもしれない。しかし、代償としてプルトニウムの被爆は嘔吐、出血、脱毛と彼の身体を蝕んでいく。


山下警部を演じるのは、菅原文太。この作品の中で一番の存在感と凄みを魅せるキャラ。シュワちゃんレベル以上に死なないキャラは、ギャグと紙一重かもしれない。


猫好きには、少しショッキングなシーンがあります。まぁ伝え聞いた話だと、そのシーンを撮影する時に「絶対に殺すなよ!」と釘を刺したそうなので、リアルに見えてもマタタビクロロホルムなどを使ったのでしょう。
カーチェイスやヘリからのダイブも、この当時としてはかなりレベルの高い映像になっていますね。CGやワイヤーアクションが無かった時代なんですから。


繰り返しになるけど、作品の古さ(演出、ストーリー面)と長さがネックだと思う。そこが誰にでも自信を持ってオススメできない点。でも、ここまでエンターテインメントを感じた邦画もそうは無いです。内容的にも描写的にも現在では撮影できないし、地上波放送も絶対に無理でしょう。リメイクも出来ないでしょうな。してほしくありませんけど。
とにかく、途中で観るの止めちゃっても構わないから、一度観てほしいです。凄いから。