「チョコレート・ファイター」

マッハ!!!!!!!!』のプラッチャヤー・ピンゲーオ監督の3作目。興味はあったのだけど、上映中に劇場に行けなかった作品。つまり、未見での購入になる。こんな買い方は賭で、例え世間の評価が良かったとしても自分に合うとは限らず、普通は一度レンタルを経るか、中古などで売価が思いきり下がってから手を出すのだが。


物語の舞台はタイ。日本のヤクザであるマサシは、敵対するマフィアのボスの愛人ジンと密会を重ねる様になる。だが、ボスの報復に危険を感じて別れる二人。マサシは、彼女が妊娠している事も知らず、日本に帰国する。
生まれた娘、ゼンは脳に発達障害を抱えていた。一方で、身体能力に優れ、一度見た他者の動きを自分の身体で完璧にトレースする能力を持っている。近所のムエタイ道場の練習生、ビデオで繰り返し見る試合や格闘映画、そしてビデオゲーム。戦う術は彼女の中に蓄積されていく。
やがて、ジンが白血病を患う。だが、貧しい母子家庭に十分な治療費は工面できない。
ある日、ゼンの友達のムンは、ジンの隠していた帳簿を発見する。それは彼女がマフィア時代に貸していた金の記録だった。そうとは知らず、借金の回収を始める二人。だがマフィアの後ろ盾を失ったジンに金を返そうとする者はいない。バカにされ、乱暴な対応を受けるゼンは、力で対抗する事になる。結果的に、暴力で債権を行使し続ける事になるゼン。それは、マフィアのボスの耳にも入る事になる…。


正直言って、ストーリーは薄いです。全編通して不幸に彩られたゼンの境遇は鬱展開の連続ですし。前半は、状況説明に費やされるので観ていて厳しいかもしれません。序盤でも不良相手にバトルがあるのですが、やはりゼンが輝いてくるのは製氷工場で戦士として目覚める場面から。ここから本作品の肝である本気バトルが展開していく。
とにかく、技の一つ一つにキレがある。
表情、フットワーク、構え、怪鳥音。製氷工場でのゼンは、ほぼ完璧にブルース・リーでした。
以後のバトルはどちらかと言えばジャッキー・チェンっぽい気もするんですけどね。
そうそう、終盤で戦う少年がインパクトありました。丸刈で黒縁メガネでアディダスのジャージ。田舎の中学生っぽい彼が、変則的なカポエラ風の技を繰り出す。ここのバトルは圧巻でした。


主役のゼン役の女の子ジージャーは、アイドルとしても通用しそうな程に可愛い。角度によっては、森下千里を少し若くした感じに見えた。
そのレベルの子が、CG無し、ワイヤー無し、スタント無しが前提の作品で主役を張る。その前提が無ければ、この位のアクションは他の作品にも観られるだろう。あるいは『マッハ!!!!!!!!』の様に、ある程度の完成された身体を備えた男なら、凄いとは思っても想像の範疇。だが、この女の子がスタント無しで、このアクションを演じる事は驚嘆する。
エンドロールでNGショットが少し観られるし、特典のメイキングでも収録されているのだけど、怪我連発の撮影だったと。
あるバトルシーンの撮影で、相手の蹴りが顔面に入ってしまった。その結果、ジージャーの左まぶたが裂け、全治1週間だったという。
このスタッフたちは頭がオカシイよね。もちろん、いい意味で。


まぁ、全体的に痛々しい映像が多い作品ではあるけれど、そこに耐性があるなら、主役の可愛さと、アクションの凄まじさの両方を堪能できる傑作だと思います。
特に、格闘ゲームが好きな人。気功や超能力バトルではなく、『バーチャファイター』や『鉄拳』、あるいは通常技で連携を重ねていくタイプの格闘ゲームが好きな人にオススメです。
可愛い女の子のガチバトル。そのフィクションでしかお目にかかれないレベルのドリームを、可能な限りリアルに近づけて再現してくれた作品でした。

そうそう、ゼンの父親である日本人ヤクザ役は阿部寛。私の観た作品ではコメディっぽい役柄が多く、良い印象を受けていたのですが、今回もなかなか良い味を出していました。ちなみに、日本版では作品内のナレーションも担当しています。
それから吹替版でゼンを演じているのは人気声優の小清水亜美。『ドリクラ』の亜麻音の人ですね。