「ソラリネのユメ Vol.7 ふるこーす」


昨年12月の19、20、23日に劇団ドリームクラブ2代目アイリ役でおなじみ藍乃聖良ちゃんの出演する舞台「ソラリネのユメ Vol.7 ふるこーす」を観に行ってきました。場所は自由が丘のギャラリーサイズ。マンションの1室をそのままカフェの店内として見立てた独特の雰囲気が漂う舞台でした。


この作品は1990年の「ないふ」、2002年の「ふぉーく」、2014年の「すぷーん」の3部構成オムニバスになっていて、それぞれがカフェの開店時のいきさつ、営業時の様子、閉店から数年その後を切り取った形になっています。それぞれを独立した物語として楽しむ事もできますが、物語背景はつながっていて、一部のキャラが年代をまたいで出演していたり、血縁関係にあるキャラが別の物語で登場したりと、その辺りの関係を理解できればより深く味わえる様になっています。公演前からそれぞれの年代が違うと予告されていましたので、最初に「ふぉーく」を観た時に配布されたキャスト表を見て少しだけ人物関係は想像できました。その予想以上の驚きも隠されていたわけですが。
さて、私は「ふぉーく」「ふぉーく」「すぷーん」「ないふ」「ふぉーく」という順番で観ました。




まずは「ふぉーく」。藍乃聖良ちゃんが出演していたのはこちらです。
カフェ開店から12年、常連のお客さんもついて、3人の女の子がバイトとして勤務していて、とても柔らかい空気に包まれたコミカルな作風でした。
開演前からカウンターではフカオ店長が読書をしていて、客席では作家のモミジノ先生がパソの前で執筆のアイディアをひねり出そうと苦戦している、そこに休憩中だったバイトのナホコちゃんが戻ってきて物語は始まります。
お店のお客さんに何かしらのドラマが起きていて、それを傍からながめてるバイトの女の子が無責任にあれこれ会話するというのがだいたいの感じでした。店長だけはオーダー品を作る時以外は始終読書をしていて女の子たちに問いかけられた時なども全く言葉を発せずうなづいたりするだけ。カフェ内で繰り広げられるドラマにもほとんど反応を見せず、不思議な印象を与えてくれるキャラです。


聖良ちゃんの演じたミチルちゃんは、ツヨシ(ツヨポン)とジュンコさん夫婦との間に入った不倫相手という役柄。大学卒業間近のキャラなので演じる聖良ちゃんと同年代という事になりますね。不倫相手とは言っても女子高生っぽさが抜けていないような可愛いタイプで、ミチルちゃん本人からすれば不倫と意識する以前に、純粋に恋した相手にたまたま奥さんがいたという感覚なんだろうなと思いました。
尻に敷かれている気弱なタイプの婿養子のツヨポンと、とても気が強くて場の空気をリードするタイプのジュンコさんに挟まれるミチルちゃん。相手に対する表情…特に目の演技は印象に残りましたね。ジュンコさんへの強い口調も、ツヨポンへの優しさや戸惑いも、よく伝わってきました。
不倫、別れる別れないの修羅場という事もあって、会話のテンポも良く、けっこう過激な発言なんかも飛び出て、今まで観てきた役たちとは一風変わった聖良ちゃんの魅力を堪能できました。
あ、でもジュンコさんもツヨポンの事をちゃんと好きだったんだって思いました。あの人はああいう態度しかとれない不器用で誤解されやすい人なんですよ、きっと。
ツヨポンも、この思い出の場所のカフェだからこそはっきりとジュンコさんに「別れよう」宣言できたんですよね。ミチルちゃんとの愛もその後押しとなったのでしょうけど、最初にミチルちゃんから力をもらったこのカフェだからこそね。


高校生男女のお客さんがお互いに告白してつきあう事になるエピソード。こちらもとても初々しくて可愛いカップルでした。当初は聖良ちゃんはこちらの女子高生役だったとの事で、これはこれでちょっと観てみたかった気もしますね。


モミジノ先生のパートでは主に編集者のオカザキさんとのやり取りが描かれるのですが、先生のファンのエダノさんが序盤から登場していて、その都度細かいリアクションと言うか小芝居を演じていて可愛く楽しかったです。舞台中央奥にもカフェの客席が設置されていて、エダノさんがそこに座って店内のモミジノ先生の様子をうかがうという演出もありましたが、観客席の両サイド辺りからは見えなかったんじゃないでしょうか。
で、モミジノ先生のスランプに聞き耳を立てていたエダノさんが黙っていられなくなり、感想を伝えて励まして結果的にスランプへのアドバイスをする事になる。ここの場面もとても熱が入っていて引き込まれました。


バイトの女の子たちにモミジノ先生とオカザキさんを加えてのクリスマス会。オカザキさんとバイトのナホコさんは交際しているのですが、この場面でお互いを大切に想ってる事や、このカフェがどれだけいろんな思い出を作ってきたかが語られます。この辺りが「すぷーん」につながっていくわけですね。
このクリスマス回の後で元バイトのコトエさんが店長に告白をして、その時に初めて店長が口を開いて拒絶する事になります。もう人とは深く関わりを持たないために話さない、それは業で、カフェをオープンした時の夢は潰えてしまって、今は罪滅ぼしで続けているんだと。その会話をモミジノ先生が聞いてしまって、それが創作のアイディアになると。この場面のやりとりが「ないふ」や「すぷーん」とリンクする事になります。


そして最後はまた日常のカフェ風景に戻って幕となります。店長関係の不安を残してるとは言え、ほとんどのキャラが幸せになりそうな、そんなあたたかい雰囲気の物語でした。
最後の場面で高校生カップルも来店するのですが、たまたま私が観た3回は全て別のカップルが登場してましたね。劇中で告白が実ったキョウコとアキラの2人、「すぷーん」に登場するケンスケとメグミの2人、そして千秋楽では特別ゲストの2人。シナリオに描かれていないところでもこうやって多くの人々の思い出と幸せを作っているのだと、深く沁みてきました。




さて、次に観たのは現代にあたる「すぷーん」でした。店内のテーブルや椅子には布がかけられていて、不動産業者が登場。カフェ閉店から2年ほど経過している事が語られます。やがてナイトウスミレさん一行、ツルマキワカナさんと彼氏、弁護士とその助手が現れます。
「ふぉーく」で登場していたフカオ店長が死去していて、このカフェを娘のワカナさんと、友人ナイトウ氏の娘スミレさんに譲渡する、その遺産相続の事で集まって話し合いをする事になります。
ワカナさんもスミレさんも父親とは疎遠だったとの事で、物件を売却してその金額を分割相続する方向にまとまりかけますが。
ところがカフェが開いてると勘違いして訪れたケンスケとメグミの夫婦、店長の死去を知って弔問にやってきた編集のオカザキさんによって、カフェが多くの人の思い出となった事を知らされ結論は変わってきます。ワカナさんはもう一度この場所でカフェを開きたい、そこでスミレさんに共同経営者になってほしいと。スミレさんは遺産相続権を放棄して全てワカナさんに一任すると。
そして最後はカフェが無事にオープンして大団円となります。
途中、ワカナさんが身勝手な彼氏と別れる決断をしたり、スミレさんの親戚のシオリさんが東京で1人暮らしをする事を決めてカフェで働く事になったり、この辺りの要素がテーマにつながっているのかと思いました。
この「すぷーん」ではワカナさんが、特に彼氏との会話の時に繊細な感情表現をされていて印象に強く残りました。
それからシオリさんですね。「ふぉーく」と比べると淡々とマジメな展開が続く中でシオリさんのキャラ性は清涼剤の様に場をなごませてくれました。こういう可愛らしさのあるさっぱりしたお姉さんってステキですわ。




そして3本目は「ないふ」。ナイフというイメージが現れている様な、こちらの心をえぐってくる観ていてツラくなる作風でした。
フカオさんが仲間とカフェ開店準備をする描写から物語は始まります。この時点ではフカオさんには何も起きていないので「ふぉーく」の時とは異なり普通の若者と同じ様に明るいキャラクターとして描かれています。
乱暴な口調のナイトウさんが「すぷーん」のスミレの父親、その彼女であるマナミさんをスミレさんと同じ永井友加里さんが演じている事から母親であるとわかります。
それから同じマンションにある花屋のお嬢さんの名前がツルマキミソノさんで、フカオさんが彼女に恋をするという展開からこの2人も「すぷーん」のワカナさんにつながるわけですね。
不動産業者も「すぷーん」に登場する業者と同じ姓である事から親子だと。
で、フカオさんとミソノさんと仲間3組のカップルのやりとりを交えて開店への準備が順調に進んで行く中、ガラの悪い男が現れて不穏な空気が漂ってきます。
最終的にフカオさんは信じていた仲間に裏切られ、自らも罪を犯し、そして仲間たちとの二度と会わない別れを経て、それでもカフェを続けて行く事になります。最後は絶望に沈むフカオさんにそっとミソノさんが寄り添って幕となります。
「ふぉーく」で少しだけ語られていたフカオ店長の過去がこの「ないふ」で明らかになり、ここでの人間関係が「すぷーん」へとつながり幾つかの疑問の答えとなるわけですね。
他の2編とはかなり雰囲気の異なる作品で、人間の暗い部分を描いています。
そんな中でフユコちゃんというキャラがとても可愛くて。好きな彼とお揃いのスカジャンを着ていたり、周囲にバレバレの恋心を否定しちゃったり、目の上のゴミを取るからと言ってそのままキスしたり、そして告白。さらには彼のために道を踏み外す。
健気でとっても良かったですね。でも、この物語が崩壊するその一因にもなってしまってせつないです。彼女たちの結末は語られていませんし、どう考えても不幸な結末しか待っていないような予感しかしないのですが、こういう子こそ幸せになってほしいですね。




「ふるこーす」3作品、流れを追えば「ないふ」という悲劇から物語は始まるわけですが、フカオ店長がカフェを営業していた事は彼の意図した物ではなかったかもしれませんが「ふぉーく」で語られた事で意味を持ちます。そこで働いていた女の子たちやお客さんたちの幸せな思い出を作った大切な場所として。そういう想いが「すぷーん」で娘たちに伝わり、本来のフカオ店長…悲劇に絶望する前のフカオ店長の夢を受け継ぐ形でワカナさんが新しく思い出となるカフェを続けていく。それで「ないふ」のキャラたちも結果的に救われたのだと思います。
この作品全体を通してのテーマは何でしょうか? まず思いつくのが「隠されていた事」「言えずにいた事」が明らかになる。「ないふ」ではそれが悲劇に一直線となってしまいますが、もしもっと早くから周囲に明らかにしていたら、よりよい対策を取って少しはマシな結末を迎えていたかもしれません。
「ふぉーく」ではそれをはっきりと口にする事でそれぞれの関係がおそらく良い方向に向かいます。
「すぷーん」ではかつてのお客さんからの「幸せ」が伝わり、ワカナさん自身も気持ちを伝え、それが一番理想的な形のエンディングへと導いていったのでしょう。
人は他人の考えてる事なんてわからないし、それが伝わらない事で誤解も生じる。言葉にしたからといって、それが良い結果になるとは限らないけど。でも、言葉にしなければ何も始まらない場合だってあるし。
伝える事は大事、言葉は大事。相手に誤解されないよう言葉を選ぶ事も大事。でも、そういった事の底にあるのは相手への想い、それが一番大事。
「ふぉーく」だけの観劇でも色々と感じ取れる事ができたと思います。でも、3作品とも「ふるこーす」で味わう事で、より深く多くの事を感じて考えました。とてもステキな作品をありがとうございました。「ソラリネ」という名前、憶えておきます。




「ふぉーく」終演後、都合3回ほど聖良ちゃんと面会させていただきました。面会時間はそれほど長くはなかったのですが、19日の時は会いに来たのが私だけだったので独占させていただく事に。20日と23日の時は仲間のピュア紳士と一緒の面会で。
けっこういろんな話ができました。この時も私が振った話題に即座に冗談っぽいリアクションを返してくれて、やっぱりアドリブ力を持っているなあと感心。これからも様々なお仕事を通じて成長していくその活躍を応援していきたいですね。

聖良ちゃん予約指名特典という事でブロマイド各種と特製チロルチョコ3種をいただきました。最高のクリスマスプレゼント。