「路上のソリスト」

個人的に好きな俳優であるロバート・ダウニー・Jr.(以下RDJ)が主演なので注目していた作品。様々な雑誌で大きく取り上げられているのに単館上映なので、普段とは違って時間に余裕を持って出かける必要があった。
久し振りの有楽町。シネコンを利用する様になるまでは、高校時代から映画を観るならこの街だった。
目当ての劇場はシネマズシャンテ。着いたら長蛇の列で驚いた。日曜の朝一から混んでるとは思わなかったのだけど、聞いたら毎月14日は終日1000円だとか。安く観られるのはうれしいが、タイミング悪く混む日に来ちゃった訳だ。当初の予定では同じ劇場内で公開されている『レスラー』とハシゴするつもりだったのだけど、疲労が溜まりそうなので断念。
40分程並んで場内に入ると席は8割埋まっている。半分近くが50代以上に思える。白髪の方が多い。
シートの造り最悪だった。私が普通に座って、背もたれが肩まで無いのだ。予告上映中に首が疲れてきたので、腰を前方にズラして首の位置を下げる。前後の席の間隔が狭いので、かなり窮屈だった。スクリーンの位置も低いので、字幕も読みづらい。結局、上映中に頻繁に姿勢を変える事になる。劇場を出た時にはヘトヘトだった。もうここには二度と来ないと誓ったよ。


さて、作品について。コラム記者スティーヴ・ロペス(RDJ)は弦2本のヴァイオリンを奏でる路上生活者ナサニエルジェイミー・フォックス)に出会い、彼の事を記事にする。天才的な才能を持つ彼は、やがて幻聴を聴くようになりジュリアード音楽学校を中退し、路上で生活するようになったのだ。スティーヴは、読者から贈られたチェロをナサニエルに渡し、取材を通じて彼に深く関わっていく事になる。
実話を元にした作品という事もあり、よくあるタイプのハートフルな展開はしない。スティーヴは記者である以上、ナサニエルに対して完全な善意で接している訳ではない。無意識の内に、読者に受ける展開に進んでいこうとする。ナサニエルに練習場としとアパートを用意し、演奏の先生を紹介し、交響楽団のリハーサルに連れて行き、ディズニー・ホール前での演奏会を用意する。しかし、それらはナサニエル本人の気持ちを理解していない押し付けであり、総合失語症であるナサニエルを苦しめていく事になる。
ナサニエルの記事が評価されアワードに選ばれたスティーヴは、ナサニエルからの電話よりも授賞式を優先してしまう。
そうした心の差違が生じ、ケンカ別れをしてしまう二人。最後はお互いを尊重し、再び手を取り合う。
問題はほとんど解決していない。色々な物が変わっていくにはそれなりの時間が必要だろうし、人は万能では無い。実話を元にしているからか、造られた様なハッピーエンドはこの作品には無い。けれども、清涼感のある終わり方をする。


この作品、何らかの賞に選ばれなきゃおかしいだろうと思いました。淡々とした嘘っぽくないストーリーも良かったのですが、やはり主役2人の演技と存在感ですね。ジェイミー・フォックスの迫力、表情。凄いわ、この人。今まで出演作も何本か観ているんですが、評価を改めます。そしてRDJ。『アイアンマン』『トロピック・サンダー』に続いて、この役。ホントに演技の幅が広いわ。
大量にエキストラ出演する路上生活者たちは本物。ロスには彼らが9万人いると作品中で言及されている。スティーヴのコラムの反響で助成金が投入される一方で、ちょっとした事から警官隊が彼らを大量検挙し、彼らの所有物を容赦無く押収していく現実。それでも彼らの表情は時に明るく、私たちの様な普通の市民とは価値観が違い、必ずしも不幸なのだという訳では無いと感じさせてくれる。
娯楽作では無いので一般受けはしないだろうし、単純に「感動した!」と言わせる程、都合良い作品でも無い。
それでも私は10点評価で9点あげます。