「ザ・スピリット」


Amazonから届きましたので、早速観賞しました。
字幕、吹替、コメンタリーと、本編は都合3回の観賞。加えて映像特典関係も視聴済みです。
この作品を劇場で観て、内容を知っている上でDVDを購入し、あまつさえ短期間に繰り返し視聴する程の人間が、この国にどれだけ存在するのであろうか?
まぁ、劇場での観賞時のレビューは↓をご覧ください。
http://d.hatena.ne.jp/dyna_red/20090614


はっきり言って、オススメできる映画では無いよ。公開時には2ちゃんねるにも作品スレッドが立っていたのですけど、いつの間にかスレ落ちして、DVDリリースのタイミングでも誰も立てようとはしない。数多のブログでもほとんど語られてないんじゃね?


そう言えば、劇場観賞時のレビューでストーリーに触れてませんでした。
こんな話です。
仮面のヒーロー、スピリット。
彼の正体はデニー・コルト。警官だった彼は悪党の銃弾に命を落とす。だが、埋葬された棺桶の中で彼は復活する。その不死身の身体を黒づくめのスーツと仮面で隠し、警察と協力してセントラル・シティの治安を守る事を誓うのだった。
スピリットの宿敵オクトパス。彼はスピリットの不死身の秘密を知っている。スピリットを抹殺し、自分こそが完全なる不死身の身体を得るために暗躍する。
そのために必要な「ヘラクレスの血」をめぐり、一人の悪女、サンド・サレフが関わってくる。彼女は、デニー・コルトが少年時代に愛し、悲劇的な事件が理由で別れてしまった少女だった。
三者が三様に動き、そして決着の時を迎える。


この作品の誉められるべき点は、まず映像美と世界観の構築でしょうか。
シン・シティ』に似ていると思った方、正解です。あの作品の原作者であり、監督の一人であるフランク・ミラー。彼がこの『ザ・スピリット』の監督なのですから。
映像は黒と白のモノクロ的な、あるいはセピア風の淡い色調を基本としていて、そこに血の赤や青い目などの色彩が際立って映える。あるいは、デニー少年時代は、サンドとの幸せな関係性を象徴するかのごとく、全体に黄金のトーンがかかっている(加えて、サンドを象徴する色も金である)。
また、背景にインサートされる色や映像や特殊パターンなどで、キャラの心理面を表現している事も多い。とことん、コミック的なのだ。
セントラル・シティの街並みや人々の服装、走行している車などは1950年代風だが、一方で携帯電話やコンピューター、トンデモ銃なども普通に使われている。
この辺のグラフィックのバランス感は、流石にコミック作家のセンスだと思う。


さて、この作品では猫が目立っていると前回も書いた。
スピリットというキャラが女性に弱い事もあり、猫という存在が「女」の暗喩だと感じられる。加えて、雑多な街を彷徨するイメージ。あるいは警察官=組織と規律という鎖に繋がれた犬との対比での、より自由性をまとう猫。
そしたら、コメンタリーで「猫」は「不死身」の意味だと言及されていた。あぁ、「ナインライブス」ね。九つの命を持つ。そう言えば、『バットマン・リターンズ』でキャットウーマンが誕生するシーンでも、そうしたイメージで描かれていましたね。
まぁ、それでも。猫=女の図式はハズレてはいないと思うんだけど。
ちなみに、スピリットに行く先々で出没する一匹の猫。コメンタリーでアーサーという名前が明かされていました。で、アーサーは何をしているのか? ただ単に、スピリットに興味があって観察しているだけだそうな。猫のする事に深い意味なんかありませんか。
で、スピリットは猫が好きなんですが。それが顕著に現われているのが、オクトパスに捕らえられたシーンでの事。
可愛い猫のマフィンが、オクトパスに薬品で溶かされるのです。まぁ、直接的な描写は見せていないんですが。とたんに、今まで飄々としていたスピリットの表情が激昂するのですよ。「その猫だけで…倒す理由は十分だ。貴様を殺す」と。反撃の機会を得、オクトパスを殴るスピリット。その時のセリフも、こうです。「サンドの分だ!」バキッ!「私の分!」ドガッ!「最後はマフィンの分だッッ!!」ドガラグガッシャーンッ!
お前、どんだけ猫第一主義だよと。


新人女警官のモーゲンスターン。表情がやたらコロコロと動いて楽しいです。と、前回も書きましたが。出会ってから、スピリットと署長に同行してドネンフェルド殺害現場まで行く場面がやたらと魅力的。で、思ったんだけど、彼女は犬属性なんじゃないかと。飼い犬が慣れ親しんだ主人の後に付いていくイメージにピッタリなんですよ。
で、スピリットも初対面の時こそ彼女の手の甲にキスをしますが、それ以降のシーンでは女性として見ていない風。エンディングとか、仕事面では彼女の事を評価しているんですがね。
終盤、スピリットが生死の境を彷徨う場面。「死の瞬間 過去の記憶がかけめぐるというが… ウソだ。女しか見えない」と、女性たちの面影が並んで、「まだ死ねない」と復活するのですが、そこにモーゲンスターンはいないのですよ。敵であるシルケン・フロスすらいるのにね。


で、個人的にはスカーレット・ヨハンソン演じるシルケン・フロス萌え。
イロイロなコスプレを魅せてくれるのですが、やはりナチスの制服が一番ですかね。加えて、このコスの時には一時的に眼鏡を外しているんですが、この時の表情がムチャ良いですわ。「俺は天才だ」と言い放ったオクトパスをチラ見する表情とかね。


誰にでもオススメできる作品ではありませんし、演出面でも好き嫌いがハッキリすると思いますが、通好みの作品には仕上がっているんじゃないかと。出演者も、知名度の高い人が何人も出ていますしね。特に、最近のサミュエル・L・ジャクソンで、ここまで突き抜けた役というのも珍しいんじゃないでしょうか。


ま、私はこの作品が好きだからこそ、これだけダラダラと書き連ねた訳ですが。