「イングロリアス・バスターズ」


タランティーノ監督の最新作、『イングロリアス・バスターズ』を観てきました。
物語は何人かのキャラクターがそれぞれの展開を見せ、最終的にある結末に収束する。作品上、5章構成になっていますが、監督の主要作品群の様に時系列が前後する様な事はありません。


まず、タイトルにもなっている「イングロリアス・バスターズ」(名誉無き野郎ども)という、ユダヤ系アメリカ人によって構成されたナチス殲滅部隊。彼らはナチス占領下のフランスに潜入し、ゲリラ戦を行っている。部隊を指揮しているアルド・レイン中尉はブラッド・ピットが演じていて、一応は彼が主役扱い。記事や宣材でも彼がメインに出ている。
とは言え、ストーリー上の重要性は低い。その反面、彼らは作品におけるバイオレンス面を担当しており、ある意味でタランティーノ的な悪趣味感が色濃く出ている部分かもしれない。紹介編の第2章、第3章の酒場&診察室、そしてラストでの展開が見せ場か。
もう一方のキャラ、主役と言っていいのがユダヤ女性ショシャナ。「ユダヤ・ハンター」ハンス・ランダ大佐に家族を虐殺され、ただ一人だけ生き残った彼女は、3年後、身分を偽ってフランスの映画館主をしていた。ある日、若いドイツ兵ツォラーと出会う。彼はたった一人で鐘楼に立てこもり、250人の敵兵を殺した英雄。その逸話が彼自身を主演にしてプロパガンダ映画として製作された。ツォラー本人からの提言により、ゲッペルスはショシャナの映画館でプレミア上映会を行う事を決定。そこにはナチスの重鎮だけではなく、ヒトラー総統まで参加するという。ショシャナは、ナチスへの復讐のため、上映会である計画を実行する。
そして、作品を通して直接的な悪役となるハンス・ランダ大佐。彼が一番、キャラクター性と存在感で輝いていたと思う。
そして、ラストを飾るプレミア上映会。実は史実からは大きくかけ離れた展開が待っているのだけど、とてもタランティーノ的な虚構をもって、エンターテインメント性を貫いている。


2時間半という長尺で、基本的には地味な会話劇が中心となる。そして淡々とした流れに観客が慣れた頃に、緩急を付けるかの様に暴力シーンや緊張感溢れる展開が待っている。
ただ、こうした作品の特色は観客を選んでしまうと思う。会話劇を退屈と感じてしまう人も、過度な暴力描写が苦手な人も、合わないんじゃないかなと。実際、私が観ている間に2組の観客が途中で退席してしまった。
しかし、『パルプ・フィクション』や『キル・ビル』と比較しても、はるかに普通の理解しやすい作品になっている。
あとは、史実と違う結末を受け入れられるかどうか。
それから注目したいポイントは2つ。これは同じナチスを扱った『ワルキューレ』との比較になってしまうのですが、あちらがシリアスな路線だったのに対し、こちらはマンガ的。特にヒトラーのキャラクター描写などでハッキリと違いを感じる。しかし、その一方で、ドイツを舞台にしているのにも関わらず、あちらが完全に英語劇だったのに対し、こちらはドイツ語、英語、フランス語、イタリア語と使い分けている。例えば、あるシーンでフランス語で話していた2人が、その会話を聞いている第三者に理解できない英語に切換え密約を交す。再びフランス語に戻して、何も無かった様に会話を終えるとか。あるいは、ドイツ兵に扮したバスターズの3人にナチス将校が問う。「彼は○○なまり、彼は△△なまり。だが、君のドイツ語のアクセントは知らない。一体、どこの出身だね? 説明してもらおうか?」という展開とか。
片や真面目な作品なのに言葉に拘らず、片やトンデモ作品なのに、言葉を最大限に活かした作風。なかなか面白いなと思いました。


私の評価は10点満点で8点です。
今回、触れませんでしたが、カメラワークスや画面演出も良かったです。まぁ、タランティーノ自身の好きな作品の影響が濃いんでしょうが。それとショシャナ役の女優さんは綺麗でした。冒頭に登場するフランス人一家の三女も可愛かった。
そうそう、バスターズの「ユダヤの熊」、『ホステル』のイーライ・ロス監督が演じています。終盤まで出番はありますし、劇中プロパガンダ映画『国家の誇り』を監督しています。