「アリス・イン・ワンダーランド」


昨日、公開初日の2回目上映で観てきました。3Dと2D、字幕と吹替の組み合わせで4パターンあるのですが、私が選んだのは3Dの吹替。まあ、せっかくだからと3Dを選んだのと、3Dの場合は字幕も浮き上がって観賞の邪魔になるので必然的に吹替を選択。
数日前から前もって良い座席を購入していたのは正解でしたね。どうやら都内だと軒並み満席完売状態だった様で、私の観た川口でもほぼ満席状態でした。


さて、物語は『不思議の国のアリス』の13年後。成長したアリスは繰り返し見る同じ夢に悩まされていた。その夢とは不思議の国の出来事。かつての経験を忘れてしまったアリスは、園遊会で大勢の前で求婚される。その場から逃げ出し、見かけた白ウサギを追いかけた彼女は木の穴に落ち、そして…。気付くとそこは不思議の国。夢で見ていた世界は、かつて本当に経験した事だったのだ。不思議の国の住人たちと出会ったアリスは、「フラブジャスの日」にジャバウォッキーを倒す戦士こそ自分なのだと聞かされる。そして迫る赤の女王の軍勢…。


私はティム・バートン作品が好きですし、『アリス』も好きですので期待はしていたんですけどね。
まず、この作品における『アリス』らしさってどこだろうと考えると、穴に落ちたり、大きくなったり小さくなったりという、原作をなぞった展開の部分。そして『アリス』ならではの、おなじみのキャラクターたち。そこに限定されてしまうんですよ。後から加えた、この作品ならではの味付けがなぁ…。
気になったのは、準主役の位置にいるマッドハッターのキャラクター性。ジョニー・デップが演じているだけあって、かなり大きな存在に改変されています。いや、原作やアニメ版を知っている人なら誰でも思うでしょう。これはマッドハッターじゃないと。コンビである三月ウサギの狂いっぷりが良いだけに、その差が際立っています。
そして終盤。アリスが騎士の鎧を着て、聖剣を手にしてジャバウォッキーと戦う展開。これは「アリス戦記」ですか? 戦っちゃいかんだろ、アリスは。


ティム・バートン作品に期待される部分は、GOTH的な美術デザインと、世界観やキャラクター性に含ませた毒。その作家性が薄いんですよ、この作品。これ、表にディズニーの名前が出ちゃってるし、ムチャは出来なかったんですかね。
例えば『パンズ・ラビリンス』の様な、あるいは『パルナサスの鏡』の様な、あるいは『ラビリンス 魔王の迷宮』の様な。そうした作品の様に、ティム・バートンならではの作家性を発揮してほしかったなと思いました。


キャラクターでは、上記した三月ウサギも良かったですが、チェシャ猫が良かったですね。予告やポスターで見た時にはイマイチ感がありましたが、動いているのを観たらイメージに近いですわ。あ、ディズニーのアニメ版のイメージね。細かい動きが猫っぽかったり、猫っぽくなかったり、その辺のバランス感覚が絶妙。吹替は茶風林さんで不満も無いのですが、ちょっとヨーダっぽい描写もあったので、永井一郎さんだったら狂喜したかも。カリン様とのリンクもこめて。
それから赤の女王。このキャラに関しては賛同を得られないかもしれませんが、可愛いと思いましたよ。いや、外見や造形はアレなんですけどね。演じたへレナ・ボナム=カーターと、吹替の朴路美さんの二人の演技力がブーストかましてくれたのかもしれませんが。いやぁ、可愛いオバサンだよ。何て言うかな…「無意識の残虐な少女性」を内包した象徴と言いますか。一つ一つの仕草がいちいち可愛い。まぁ、それはつまり幼女の行動なのかね。つまりアリスの合わせ鏡の存在って事か。
「無意識の残虐な少女性」って事に注目すれば、赤の女王&ジャックに対する白の女王の最後の宣告も、現実世界に戻ったアリスの人々に対する発言も、同じ様に残酷だと思うんですけどね。
作品のテーマは誰もが分かる「狂気と正気」ですが、その狂気の部分が女性たちに顕れているのが残酷性なのかもしれないですね。


さて、前述した様に3Dでの観賞だったのですが。個人的にはあまり良い印象は無かったですね。3D作品を観た時にいつも感じる事なんですが、デメリットが多い様に思うんですよ。
まず、3Dメガネを使う事によってのグラス越しの弊害。明らかに彩度が落ちますよね。それこそメガネを使用しないとスクリーンを直視できない程に調整している訳ではないですから。場面にもよりますが、裸眼と比較して薄暗くなります。あと、個人差もありますが、メガネを使う事で耳周辺や鼻に疲労。もちろん3D映像による眼球疲労も通常の映画以上。
映像的にボケた感じになる感覚。立体に見える分、その効果が目立ってしまって、デザインが潰されてしまいます。細かい部分のディティールが判別できますか? ここは絶対に2Dの映像に劣ってしまっていますよ。特にティム・バートン作品みたいに世界観を作り込んだ作品にとっては足枷になってしまってますよ。
そして、これはよく評論家なんかにもよく指摘されている事なんですが、3D作品は1枚の画像として脳に記憶しづらいそうで。スクリーンショットとして刻めない分、動きはともかく場面の印象が弱くなってしまうんですな。
何かね、もう、私には3Dは向いてないなぁと改めて思いました。
この『アリス』も、機会があったら2D字幕で再観賞したいですね。そして、特別な理由が無い限り、今後は2Dを選ぼうと思いましたよ。


ティム・バートン作品としては駄作では無いが傑作でも無い。凡作止まりですね。『アリス』作品としてもディズニー版アニメや、ヤン・シュバンクマイエル版、あるいは『ドリーム・チャイルド』などと比較して際立って優れている部分も少ない。でも、細かく拘らなければ十分に楽しめるのは確か。
まぁ、『アリス』の新作映画を観れたという意味では良かったし、ジョニー・デップ好きとか、一般層には向いているかもしれないですしね。
10点満点評価で7.5点ってとこですか。ただ、『アリス』ですから。素晴らしい物語性を期待できる作品ではありません。そういう要素を映画に期待する人にとっては、もっと評価は低い駄作かもしれないですね。