「雪の女王−あなたに伝えたい−」

このブログではまだ触れる機会がありませんでしたが、劇団ドリームクラブの2代目アイリ役の藍乃聖良ちゃん(今年の春に劇ドリから卒業しています)が今年に入ってから劇団ひまわりに所属する事になり、芸名を本名の「山下聖良」に戻して活動を続けています。
9月の22、23、27日に、その聖良ちゃんの劇団ひまわりでの初の大きなお仕事とも言えるミュージカル公演「雪の女王−あなたに伝えたい−」を観てきました。公演の各地ごとに出演者も別で、さらに東京公演でもトリプルキャストになっていて、聖良ちゃんは東京B班での3公演での出演でした。3公演で合計6時間ほどではありますが、それこそ氷雪の下で春を待つふきのとうの様に、本番に備えて稽古を続けてきた聖良ちゃんの想いがたくさん込められた舞台でした。


この作品はアンデルセンの作品を原作と表記してますが、実際にはほとんど関係ないですね。もちろん雪の女王は両方にいますが、女王は原作の方ではむしろ空気でほとんど登場しないですし。雪の女王が誰かを連れ去り、残された者がそれを取り戻しに行く。そういうアウトラインだけ共通という感じですね。この舞台版だとRPG的な味付けもされている印象も受けました。
ただ、ストーリー的には勢いで流している展開もいくつか感じられ、3回観てもどうしてそういう事になるのか理解できない場面もありました。それでも、断片的にキーワードはちりばめられていて、ある程度は物語の隠れている部分を想像する余地はあります。そういうのを意図して書かれた脚本とも思えませんが、ガチガチに構築した割りには破綻するよりは、観る側の感性に委ねるというのもありかもしれません。設定の説明を延々とする作風ではないですから。



聖良ちゃんの役はカレンという少女。妹のアンナと仲の良い姉妹で、そのアンナが雪の強い日に行方がわからなくなって。幼なじみのフランツと一緒に彼女を探している中、盗賊たちに襲われたり、そこをラップランドの領主の息子一行に救われ、彼らと一緒に雪の女王の居城を目指す。そういう流れです。
ポスターやパンフ、あるいは物販での比率などから見ても男性出演者たちが前面に出されていて。その事からもこの作品の主役は領主の息子のクリスなのだろうとは思います。雪の女王の送り込んだ「影」と戦うのは彼らでしたし、クライマックスでもクリスがとても重要な役割を担います。
しかし、聖良ちゃん演じるカレンも人間の中では妖精と通じ合う事のできる唯一のキャラで、それが状況を先に進めるきっかけとなり、アンナへの想いやクリスたちとの交流などの描写もよく描かれていて、感覚としては全体の6割くらいの場面では舞台上にいたのではないかと思います。もう1人の主役でしたよね。これは実際に観劇した人の多くが感じた事だと思います。
最初に出演発表された時はまさかここまで大きな役だとは思っていなくて、聖良ちゃんは出番も多くはない大勢いるキャラの1人なんだろうと受け取ってました。それがチラシの真ん中に聖良ちゃんの顔写真が来て、これはもしかしたらと期待していたら…配役が発表されたら思いっきりメインじゃないかと。うれしくて心躍りましたね。


アンナを演じる北島楓ちゃん。純粋なカレンと違って内面に少し尖った部分も持っているキャラで、コミカルな部分も多く柔らかい印象のカレンとの対比で感じられる硬質な演技の個性が素晴らしかったですね。特に女王とのからみは会話もダンスも華があって輝いてました。アンナもカレンと同じく重要なキャラですから、選ばれた楓ちゃんも実力は際立っているのが観ていてわかりましたね。


舞台セットは高低差があって中央が広い階段になっていて、それらを活用した動きのある場面が多かったですね。
また、傘を様々な見立てに使い、ある時は雪が舞う様、あるいは鏡、武器や灯りやソリや扉など。また高低差と組み合わせて傘を境に氷に覆われた大地の上下を表現するなど、演出面の工夫が素晴らしかったです。
それに、やはり雪や氷やクライマックスの明るさなどが印象に強く残るほど、光の明暗の演出としての照明が綺麗でした。
ミュージカルでもありますから音にもこだわっていて、音響も良かった。
それと、劇団ひまわり公演なので幼い子役も大勢出演していて、みんなの表情がとてもキラキラしていてまっすぐで、とてもパワーを感じました。この子たちも成長して実力をつけて、そうした「夢」や「未来」への想いもこの作品には込められている象徴なのだと思いました。
ただ、子役たちの登場する妖精パートと、男性陣の活躍するアクティブな殺陣パートとで作品の統一感が乖離している気もしますね。カレンがより多く登場して活躍するのは前者なので、後者の方は一歩引いて観てた感はあります。私はダンス系の場面も観るのは好きなので良いアクセントになって楽しめたと思いましたが。3班のうちBSP班の公演は子役が一切出てこない(フランツや、クリスの弟のカイも)ので大幅に展開が変わっているみたいですし、そちらなら作品の統一感は強く出ていたのかもしれません。


さて、聖良ちゃん。彼女の事を知ってからこの1年ちょっとで会場規模も様々な公演をいくつか観てきました。そんな中で魅力を感じてファンになったきっかけというのが「静」の演技だったわけです。表情だったり、ささやかな仕草だったり。特に表情は笑顔が可愛いのはもちろん、泣き、戸惑い、不安などが内面から抑えきれなくなって出てくる表情がとても魅力的で、この子はスゴいなと感じていたのですね。そして、このカレン役では舞台上をアチコチに動き回ったり、コミカルな場面もいくつもある事から、聖良ちゃんの「動」の演技も多く堪能できて、この点は劇団ひまわりに入ってからのお稽古の日々で一気に伸びた部分なのかもしれないですね。ミュージカルという作品の特徴にも引っ張られた点はあるかもしれませんが、手足の先まで全身を使って躍動感ある演技をしていましたし、顔や姿勢も場面によって大きく動いていて。ただ単に舞台上に立っていて台詞を発しているのではなく、「演技」という物を聖良ちゃんなりに咀嚼して動いているのが伝わってきた気がしました。まあ、今まで私が観た聖良ちゃんの役はあまり動き回るキャラではなかった事からの受ける印象の違いが大きいのかもしれませんが。
歌唱力、昨年の夏秋頃の音源だと弱いなとは思うのですが、ボーカル教室に通っての今年1月の発表会では格段に歌が上手くなっていましたし、その延長で経験値を積み重ねてきたのが今回ははっきりわかりましたね。だいたいミュージカルって主役級キャラのソロが聴きどころにもなると思うのですが、その期待に応えてくれる素敵な歌声でした。特に「幸せを探して」という曲は聴き惚れて歌詞も自然に憶えてしまいましたね。また、全体で歌っている時でも良い意味で「混ざってしまわない」、けれども必要以上に表にも出過ぎない、それでいて聖良ちゃんをはっきり感じられる歌唱だったと思います。
ダンス関係も良かったですね。女の子としては身長ある方なのでアンナや妖精たちとからんでいてもメリハリが効いているし、よさこいや劇ドリでの経験に加えて劇団ひまわりのお稽古で大きくステップアップした印象でした。
聖良ちゃんがこの舞台と役に出会えた事は、聖良ちゃん自身にとっても、私らファンにとっても本当に幸せな事なんだなと思いました。
何か、ほめてばかりな気もしますが。
ただ、私は聖良ちゃんのカレンしか観ていないわけで。当然他の2班のカレンもそれぞれの個性があって素晴らしいと思うのですよね。その2人のカレンと比較してこそ聖良カレンの良い所もイマイチな所ももっとはっきり見えてくるのではないか、そこを自分は見逃してしまってるんじゃないかとも感じるのですよ。ファンとして「可愛い」「良かった」だけでもいいのかもしれませんけど、「女優」としての聖良ちゃんを表面だけではなく、もう少し深く観たいじゃないですか。他の2人のカレン役はそのための良い比較対象だったかな。だから、他の班の公演も1回は観ておくべきだったかなーと、千秋楽が終わった後に思ったり。次にダブルキャスト、トリプルキャストの機会があったら、予定組めそうならそちらも観てみたいなと思いました。



劇ドリ以降、いろいろな舞台の感想などで「ありがとう」について言ってる気もしますが、今回も思いました。「ありがとう」は言うのは少し照れくさいかもしれないけど、想いを素直に伝えられて、相手を幸せにできる言葉なんだなと。
この「雪の女王」の中でも「ありがとう」という言葉は効果的に印象的に使われていますね。その趣旨を汲んで私もこれからも積極的に使っていきたいと思います。
素敵な作品、素敵な聖良ちゃんを観せていただき、ありがとうございました。



ちなみに私事ですが、今回初めて聖良ちゃんにスタンド花を贈らせていただきました。