『ウソトリドリ』

山下聖良ちゃんの出演する舞台、Flying Trip vol.13『ウソトリドリ』を観てきました。場所は東池袋のあうるすぽっと。初日の14日、17日のマチソワ、18日のソワレ大楽の計4回。うち17日マチネは前日に決めて当日券で入った回でした。

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刀剣乱舞』ミュージカルの人が出演するとの事は聞いていて、それ以外にも人気ありそうなキャストさんがゴロゴロいて、聖良ちゃん本人も「チケットの争奪戦が予想される」とツイッターでおっしゃっていたわけですが、劇場がそこそこ大きかった事も幸いしてか、チケット難民になる事は回避できました。とは言っても、予約開始から10分くらいはカンフェティの予約ページに繋がりませんでしたし、繋がった時には大楽のS席は完売と。人気のほどがうかがえます。それでも当日券は毎回の様に出ていましたから観に行き易い舞台ではあったかなと。

 

 

それでは本編の内容を大まかに。

 

主人公の阿久津が目隠しをされ両手を背中で縛られ座っているところから始まります。どうやら2人の刑事から拷問混じりの不当な取り調べを受けてる様子。そこからOPを挟んで時系列が戻って。

物語は大学を中退した阿久津がコンサルタント教材詐欺に引っかかり、その会社でのし上がっていくパートと、売れない小劇団演劇役者たちのパートを交互に観せていきます。

劇団員の三木が阿久津に契約説明を受ける事で両者は繋がり、同じ劇団員で阿久津の幼馴染だったみさことの再会でさらに物語は転がって。

非情に業績を上げていく阿久津。バイト掛け持ちで慎ましい生活に耐えながら舞台稽古に頑張るみさこ。ある日、三木の紹介という形でみさこが教材の契約をしてしまう事で阿久津の心が揺らぎます。

そして刑事に確保監禁される阿久津。コンサルタント会社の総会と、劇団の存続を賭けた公演が結末へ向けて収束して行きます。

 

阿久津は真っ当な仕事で地道に働く事を決め、借金を背負ったみさこは劇団を抜けて夜の仕事へ。劇団は存続が決まったもののベテラン2人が役者を辞めるという決意を。

この先にハッピーエンドが待っているかの保証も無く、阿久津は寂しそうな笑みを浮かべつつ今はもう何の意味も無い肩書きの入った名刺を宙に放り投げて幕。

 

 

意外にも、初回観劇前に予想していた物と違いストレートプレイを正面から作ってきたなと。特撮出身俳優だったり2.5次元ミュージカルだったり声優だったり元アイドルだったりするキャストを何人も集めていて、戦わせない歌わせない踊らせない。吉田翔吾さんなんてアフタートークの時にはバク宙を披露してたりもするのに、そんな個々人の武器を安易に本編に投入する様な媚びた演出をしない。そういう姿勢はとても好感を抱きました。

 

コンサルタント教材詐欺をテーマに、被害者から加害者へと立ち位置を変え、次第に人間性を失っていく事。プライドと嫉妬。悪意と善意。序盤では別個に進んでいたコンサルタント側と劇団側がやがて交差し、それによって阿久津の意識に変化を生じさせ、最後は阿久津の現実と劇団公演の虚構をリンクさせる。そうした構成がとてもよく練られているなと思いました。一度の観劇でも楽しめますが、リピート観劇する事で細かい部分に気づけたり、考察の手がかりを得られたり。身近な、誰でも巻き込まれる可能性のある被害を描く事で観客が自己を投影して解釈できたり。そうした内容面でも面白く、観て満足度の高い舞台だったと思います。

 

 

劇団アポロの劇中劇、『過去の巣の中で』というタイトルらしいですが、まず気づくのはコンサルタント側とリンクする事。

最初に外敵として登場するカーネルおじさんは純粋に利益のためにヒヨコ達を狩るわけですが、その後に登場するウソつきカラスは利益ではなく「騙す」という行為に悦楽を覚える様なトリックスターであり(「火」を使う事などは『ニーベルングの指環』のローゲのイメージが少し入ってるかな?)、これは「一線」を越えた阿久津を囚えようとする「悪意」と重なって見えます。そうすると途中で不可視化される妖精は「理性」か。

ちょっと興味深いのが、ヒヨコの兄妹も現実で被害に遭う三木とみさこがちい兄ちゃんと妹なわけですが、パチンコで借金まみれの小暮が「生き方の上手な」お兄ちゃん、詐欺の勧誘で信頼を失う三木が「みんなに信頼されてる」ちい兄ちゃんと、まさに彼らの現実が逆になっていたわけで。そうすると「天真爛漫」な妹のみさこが現実では何を失うのか。

 

それから、ヒヨコが空を飛ぶのを夢見る事。ヒヨコは飛べない現実を受け入れて親鶏になる事。そして次の世代のヒヨコを産み育てる事。お兄ちゃんの様に飛ぶのをあきらめるか、ちい兄ちゃんや妹の様にそれでも飛ぼうとするか。この辺りの描写は小劇団演劇の世界を描いてる様にも感じました。小劇団でそこそこのファンを得て、苦しい生活ながらそこに居心地の良さを感じて役者を続けるのか。あるいはメジャーの舞台を夢見てリスク覚悟で上を目指そうとするのか。

コンサルタント詐欺の面でも、教材が売れずに断られ避けられる三木の姿が手持ちチケットが売れない役者の姿にも見えましたし。「1人の客を掴めばそこから世界が広がる」という「客」が「ファン」に置き換えて聞こえましたし。

小劇団が作品内に登場する事から受ける印象もあってか、そういうメタな意味が込められてる脚本に感じましたね。

 

 

演じるキャストさんたち、皆さん本当に観ていて素晴らしいと感じる人たちばかりでした。その中から何人かについて。

 

 

まずは聖良ちゃん演じる前島葵さん。プレミアミッション側のNo.2的なポジション。クール系で終始キャラが崩れる事は無い、聖良ちゃんには珍しいタイプの役。三木を勧誘する場面で阿久津や糸川までもズッコケる事があったのですが、ここでも葵さんだけは崩れなかったのはチェックしておくべきポイントだと思いました。

衣装、下だけチェンジ、白のパンツと黒のスカート。上は胸元のレースが上品さをひきたてていました。

わりと舞台上に出ている場面も多いのですが、セリフはそんなに多くなく、黙って場の様子を見て待機しているという状況が多いです。

出演女優さん4人の中では印象も薄く地味な役かもしれません。劇場を沸かせるギャグやユーモアのある場面も無く、強烈なキャラクター性も無く。ですが、その凛としたカッコ良さは他の3人の女性キャラとは明らかに違う個性が出ていたと思います。ツイッターでも聖良ちゃん好印象の感想をいくつも見かけましたし。

立ち居振る舞いも表情も仕草も、演じる姿に観客の視線を引きつける魅力があります。

個人的にも「悪役」や「冷酷な役」も聖良ちゃんにはいつか演じてほしいと思っていただけに、今回の配役はとても嬉しいですね。それに、何と言っても演じる役の幅が広がっていく事は今後のお仕事への期待にも繋がりますし。

仕事モードに自分をガチガチに固めた印象でほとんどの場面で冷たい雰囲気。でも「焼肉おごりなさいよ」の時と道に迷う話題の時、ラストの阿久津との会話場面ではちょっと柔らかさ優しさが出ている。むしろこちらが葵さんの素の性格なのではないかと感じました。

糸川に対する「心の檻に早く鍵をかけなさい。嫉妬という獣が暴れ出している。一度檻を出たら最後、あなたの理性を飲み込むわよ」というセリフはカッコ良くて印象に残るのだけど、冷静に考えたらかなり厨二病的で芝居がかっている。こういう言葉が普通の会話でスラスラ出てくるものなのか?というのも引っかかって。教材詐欺という仕事を非情に徹してこなすために「デキルオンナ」を意識して演じてるキャラなのではないかと思いました。だからプライベートとは性格を切り替えてるのかも?という印象。

物語の後、葵さんの人生はどうなるのでしょう。今後も沖田についていくのかもしれませんね。今まで多くの人を不幸にしてきた事でしょうから、それなりの報いが待っているのかもしれませんが。

アフタートークの聖良ちゃん出演回は残念ながら逃してしまいましたが、カーテンコール時の日替わりキャストあいさつは観る事ができました。本当に可愛くて眼福です。

それと、有名で人気な出演者が多いから終演後の面会は無い物とあきらめていたのですが、嬉しい事に、面会ありまして。毎回お話しさせていただいて、握手してもらって、目の前で笑顔を見れて、幸せでした。

 

 

阿久津。高橋健介さん。『ウルトラマンX』で毎週見ていて、『ウルフェス』のステージでも生で一度観ていました。今回ストレートで初めて観て、とても舞台映えする人だなと。スタイル良いし背も高いし、何より感情的になった時の演技が素晴らしかったです。アフタートーク時も魅力的でしたし、こりゃ人気出て当然だなと。

物語上は、やっぱりみさことの関係性ですね。ダメな子だと思って軽く見ていた相手が被害に遭おうとする場面に直面して、初めて大切な相手だったと気づく。それが「一線」を越えてしまった阿久津をこちらの世界に引き戻すきっかけとなる。最後の名刺の場面も、みさこに舞い降る桜の花びらと重なって見える。

阿久津が越えた「一線」のラインが何なのか考えてみたのですが、メインターゲットが学生で、たぶん最終的には親族などが助けてくれるのを前提としてたんじゃないかなと。それで自分たちの罪悪感は軽減される。ところが相手が破滅しようがなりふり構わず契約を取る事を優先する方向に意識が変わってしまった。それが「一線」を越えた、そういう事なんじゃないかなと。刑事が断定した「悪意」の域まではまだ行ってなかったとは思いますが。このまま続けていれば、引き返せないところまで堕ちてしまっていたかもしれません。

 

 

みさこ。岡田彩花さん。初回で観た時の最初の印象はちょっと訛りが煩いかなと。でも、観ているうちに気にならなくなって、表情も豊かで、ちょっと大げさに感じる動作もキャラ性に合っていて。華がある人だなと思いました。衣装も多いですし。

とにかく笑顔笑顔のキャラなのですが、契約の時の阿久津の取り乱す姿を見てからはその笑顔が曇る、ここの演技好き。みさこは契約の場に来る時までは阿久津の事を本当に信じて疑ってなかったと思う。でも阿久津の姿に違和感を覚えて、それでも信じたい気持ちと、以前の阿久津に戻って欲しい気持ちがあってか。それでの契約だったのだと思う。この契約で力になりたい相手が、三木から阿久津に変わった様な印象。まるで殉教者。結果的に、それが阿久津を変え、救う事になるわけで。「貧乏は嫌だ」という理由付けを告白してるけど、阿久津への気持ちの方が大きいんじゃないかな。

あと、ちょっと思ったのが阿久津とみさこの関係性に既視感があって、初回観た後からずっと考えててやっと思い至ったのが「スイートプリキュア』のセイレーンとハミィ。異論は認める。

みさこは自分がダメな子だってのは自覚していて、それをずっと耐えて笑顔で隠してたんですよね、きっと。

 

 

沖田。この人もビジネスに徹した様な役で、その内面が見えてこない言動が続く。それが最後の最後で泣きわめく様に「金があれば一流の教育や医療が受けられる」と本心を吐露してくる。たぶん未成年時代はそういう底辺の生活を送っていたんだろうなと。阿久津のセリフにあった「親のスネをかじる学生」を基本的にターゲットにしてるのはそういった沖田の生い立ちからの復讐なんじゃないかと思いました。

演じる相馬圭祐さん、私は『シンケンジャー』以降はお仕事を観れていなかったんですが、とても良い役者さんだなと。舞台上にいるだけで空気が変わる、そういう存在感のある演技でした。

 

 

糸川。藍原直樹さん。プレミアミッション側の中でも、とても人間臭さの出てる魅力的なキャラだなと思います。「人間性」が小さい。嫉妬も自己顕示欲もマウンティング願望も、観ていて感情移入できる人でした。だからこそ、確かな演技力のある役者さんが必要な役なのだなと。

三木の契約時の阿久津への「フォロー」、その時の葵さんとの細かいやりとり、そこからの「嫉妬という獣」のセリフを突きつけられるまでの一連の場面、とても好きです。

 

 

今回も楽しめた舞台だったなと。基本的に私は聖良ちゃんの舞台はなるべく初日と中日と千秋楽を観るつもりでチケット買ってて、今回も3回分を予約していたのですが、初日の公演を観て気に入って、それでもっと行きたくなって当日券で1回分増やしたと。

そう思える舞台に出会えるのは嬉しい事です。ぶっちゃけ、聖良ちゃんのお仕事を観れればそれで満足できますが、推しのキャストさんを観たいという欲求だけでなく、その作品自体を何度も観たくなる、そういう舞台に聖良ちゃんが出演してくれた事、聖良ちゃんを出演させてくれた事、本当に心から感謝です。

聖良ちゃんのお仕事仲間の方や知人の方が何人も観に来ていたらしい事、私の観劇仲間も何人か観に来ていた事、初めて聖良ちゃんを知って気に入っていただけた方が何人もいた事。私みたいな一ファンが言うのもおこがましい事ではあるのでしょうけど、本当にありがとうございます。

 

 

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物販。ブロマイドがあると期待したのですが、残念ながら聖良ちゃんのは出ていなくて。パンフだけ買って、DVDを予約しました。

 

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今回も聖良ちゃん宛てにスタンド花を贈らせていただきました。

公演1週間くらい前に聖良ちゃんがツイッターで役のイメージに合わせて「ピンクラメグラデーション」「オーロラ姫」と言っていたのでピンク中心で作っていただきました。葵さんの役のイメージなら白中心でも合っていたかもですね。

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そして今回も花の宛名札に聖良ちゃん本人からサインとメッセージを書いていただいてました。ありがとうございました。

 

 

余談ですが、男性キャスト宛に贈られていたスタンド花の数々、女性のファンが発注した物だろう事もあってか、とてもアイデアに溢れていて凝ったデザインの物が多かったですね。眺めていて参考になりました。私もいつかはお花屋さんお任せじゃないオーダーで出してみたいと思いました。