『火消哀歌』

山下聖良ちゃんの出演する舞台、平成時代劇 片肌☆俱利伽羅紋紋一座「ざ☆くりもん」第二十三回本公演『火消哀歌』を観てきました。場所は池袋のシアターグリーン BIG TREE THEATER。初日の15日、18日のマチソワ、22日の千秋楽の計4回。

初日、折り返し中日、千秋楽で、席種も最前下手、最前中央、3列目上手、5列目中央とけっこう良い配分で観れました。

 

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チケット予約開始直後、CNの方が全然つながらなくて、ようやくつながったカンフェティの方は千秋楽はB席しか残ってなくて。それで妥協するつもりでいたら、後でのぞいてみたCNの方にはS席がゴロゴロ残っていたと。慌てて千秋楽だけそっちに切り替えました。S席3回になりましたが、後に発表されるS席特典が3種類だったので結果的に良かったです。ここ最近、聖良ちゃんの出演する舞台がチケット争奪戦になるパターンが続いてるのでちょっと焦りました。

 

 

まずは大まかな筋をざっくりと。

江戸時代です。とは言っても男性キャラはキャストさん素のままの髪で出ていますし、会話の中にも「アイドル」やら「ダンス」やら外来語を普通にガンガン使っていますから、がっちりと固めた作風ではありません。この辺り、江戸という世界観に浸りたい人は抵抗あるかもしれませんね。私も実はこういうゆるいのはあまり好きではありません。

 

冒頭、主人公の助六とヒロインのおそめが神田明神のお祭りの帰り、花火が打ち上がる下で会話する場面から始まります。おそめは親の借金のためにお盆明けに吉原に身売りされる事になっていて、淡い恋心を抱いているであろう二人の、大人の決めた波に抗えない葛藤を描いていきます。そこに幼馴染たちも登場し、おそめは皆に別れを告げ、助六はおそめに「待ってる」と伝える。

 

そこでOPのダンスシーンをはさんで、明けた時には10年後。

一度は町火消になった助六は父親を大火で失った事をきっかけに火消を辞め、おそめは逢染という花魁になってもうじき年季明けを待つ身。

 

物語は火消側と花魁側を交互に描く様な形で、双方それぞれ何人かのキャラのストーリーを織り交ぜつつ。また、文使いの寅吉や医者見習いの ましろ、火消若手の三人組などを双方の橋渡し的な役割を担わせ、物語を進めていきます。

そして終盤。江戸中に燃え拡がる大火に彼らの運命も巻き込まれ。吉原におそめを救いに行く助六、10年振りの再会。そして二人は別々の道を…。

 

 

全体通しての感想。

とても良かったです。素晴らしかった。

初日に観た時、前半はコミカルな場面が多々あって、加えて上記した様に外来語が普通に使われる時代考証無視な作風なので、ちょっと味付けが濃くてくどくて個人的に合わないかもなあとも思っていたのですが。後半にコミカルさが薄れ、シリアス度が増していくごとに舞台に引き込まれていきました。全体の配分として見れば、コミカルな要素も「つかみ」としてはバランス良かったのかもしれません。

 

舞台セットは全体が大きな階段状の造りになっていて一番上に引き戸、さらに場面によっては格子状の衝立を配置して遊郭や家屋の瓦礫に見立てたり。赤い照明とスモークを使って火事を表現。シンプルなセットながらキャストさんたちの熱演も作用してとても迫力で絢爛な舞台効果が出ていました。

 

ストーリー的にも助六と逢染の想いを主軸にしつつ、他のキャラクターのエピソードを展開させていく事で、ダレる事無く、飽きる事無く。特に後半の大火が起きてからはクライマックスの連続で涙腺崩壊しっぱなしでした。

助六とおそめもお互いを想ってはいても実際に出会えるのは冒頭の別れとラストの再会からの別れと、対照的に挟み込む形になっていて、綺麗な構成だと思いました。(EDでも二人が一緒にいる場面がありますが、あれはたぶん現実じゃないでしょうね。)

 

冒頭の祭りの後の二人の場面で花火が打ち上げられてる演出が少し入るのですが。

あれはまず「花」魁と「火」消で「花火」にかけているのだと思いました。そしてパッと咲いて華々しく散っていく…ラストで うめちゃん が語る「刹那に生きる江戸の人々」の象徴でもあり、二人の子供時代の終わりをも告げているのかなと。

 

 

タイトルに「火消哀歌」とありますから哀しみは描かれるだろう事は容易に予想できました。消防を題材にした映画なんかもいくつもありますから、犠牲者は出るにしても最終的に大事な人を救い出すマッチョイズム的な展開になるのだと思ってました。

ところが意外な事に救えてる描写が全然無い。「救え」と指示されて火消たちが別れる場面はあるんですけどね。助六も父親のトラウマを誰かを救う事で克服するのかと思ってました。源蔵さんも、しのさんを救い出せるのだと思ってました。そういう定石を外し、精神的な開放感をあえて描かなかったという事で、逆にとても記憶に刻まれる印象を受けました。

作品としての密度も濃く。出演されているキャストさんやダンサーさんたち皆さんがとても存在感があって、それぞれがしっかりと役として生きていて、満足感のある舞台でした。

ただ、再々演という事で、もしかしたら過去公演からカットされている場面とかあるのかもしれないなとは思いました。例えば、お文ちゃんが政五郎のどういうところが好きになのかとかを具体的に描いてもいいし、ましろさんについても心理面をもう少しわかりやすくしても良かったかなと。

 

 

 

 

 キャストさん、とにかく人数が多いので何人か特に気になった方を。全体の半数くらい。

 

 

桑野晃輔さん演じる助六

去年の『マーダーケース』で藤澤先生役でした。今回の舞台の中で聖良ちゃん以外で唯一、以前に舞台を観た事がある方。芯の通ったカッコ良さと、富くじの場面などで見せるダメっぷり。でも一番印象に残ったのは、おそめ、逢染と向き合った時のせつなさですね。演技力、流石です。

 

長谷部優さん演じる逢染。

冒頭の おそめの時も良いのですが、やはりラストで助六と再会した時の逢染の演技力ですね。おそめと逢染でスイッチが切り換わる演技は鳥肌が立つほど素晴らしかったです。自身の演技どころか、場の空気まで変えていたと思いました。

ツイッターでもつぶやきましたけど、赤ちゃんを宿したまま花魁を続けられるはずはないし、どう考えても堕胎させられるだろうし、吉右衛門に身請けしてもらえなければ母子ともに幸せにはなれないと思うんですけどね。その辺がモヤモヤ残りました。

 

伊勢大貴さん演じる政五郎。

聖良ちゃん演じる お文ちゃんの相手役。役柄上、コミカルな場面が多数。政五郎がやらかしてお文ちゃんがツッコミ入れるパターンが主。その掛け合いがとても微笑ましいというか。お文ちゃんの愛情表現をしっかり受け止めて、良い関係性を築いている。それがお文ちゃんを振り切って大火へ出動する、あの場面に全て結実する。そこからはもうとてもカッコ良かった。背も高いから本当に絵になる。懐の深さ。

聖良ちゃんとお互いの良さを引き出し合って魅力的な二人を作り上げているんだなと思い、ツイッターでもそういう感想をつぶやいたのですが、聖良ちゃんのInstagramでも役作りの支えになってもらえたという事が書かれてあり、本当に良い相手役に恵まれたなあと思いました。

それと、後で知ったのですが、伊勢さんは『キョウリュウジャー』の挿入歌、『トッキュウジャー』のOP主題歌、『ニンニンジャー』のED曲を歌っていたと。聖良ちゃん、本当に特撮関係者と縁があるなあ。

 

仁藤萌乃さん演じる うめちゃん。

とても、元気のある町娘でした。目立つ場面って、この子がはっちゃけている事が多いのですが、何とも言えない表情の豊かさ、爛漫さ。特に冒頭の父親の仏前での母との掛け合いでの表情や仕草の細かい変化、上手側でそれをじっくり観れた時は楽しかったです。

それと、助六に半纏を羽織らせて背中を叩いて後押しする場面ですね。

 

永田彬さん演じる伊蔵さん。

個人的に一番カッコ良いと思った人。しのさんとの別れの場面。情を抑え、助かる命を助けるために判断し行動できる人。でも、しのさんが生きていると知ったあの一瞬に伊蔵さんの中でも葛藤があったんだろうなと、そういう表情も見せてくれていたようにも思えます。あの言葉と行動があったからこそ、その後で源蔵さんとしのさんが「良い別れ」ができたのだと思います。

 

騎田悠暉さん演じる寅吉。

火消側と花魁側をつなぐ一人。最初は飄々とした印象だったけど、花魁のためにと動く優しくて熱いキャラだった。つねさんに詰め寄られて啖呵を切る場面の気迫。目線の使い方もとても良かった。声も良かった。

 

栗原大河さん演じる喜兵衛。

とても優しさを感じた演技。主にさよさんとの掛け合いが中心だったからこそだけど、その全ての場面でさよさんへの愛があふれていた。でも、半鐘が鳴るとキリッと凛々しい顔つきになる。さよさんとの別れ、私はあの場面が一番涙が止まらなかった。何度目でもダメ。それほど、あの場面の喜兵衛の演技は素晴らしかった。

あと、上手で正面からお顔を見た時、「綺麗だな」と素直に思いました。これは惚れるわ。

 

梨木まいさん演じる さよさん。

聖良ちゃん以外で、今回の女性キャストさんの中で一番可愛いと思ったのがさよさんでした。ちょっと猫目で、笑顔が可愛くて、喜兵衛への愛が全開で、女子トークの時の小娘感、源蔵さんに尻を触られた時の反応、ことごとく良い。そういった幸せ感が、喜兵衛との別れの場面に全部…。本当に泣いた、泣かされました。

 

柚木美咲さん演じる ましろさん。

所作がとても上品だなと。うめちゃんの友達だから、お文ちゃんより年下なのよね?でも大人に見えた。

初日の時にEDで、あれ?もしかして助六の事が好きなのかな?と思って、2回目に観た時に序盤から既にそういう仕込みが色々とされてるのに気づきました。そういう意識で観ると、細かい演技をずっと積み重ねていってるんだなあと。そもそもパンフのコメントにも思わせ振りに書いてました。

酔った時に助六に「カッコいい」と言ってしまうところとか、富くじの時に「吉原に行く」と聞いて軽蔑するような表情になるところ、とても良かったです。

台詞を発しているキャストさんがいると観客の視線は自然とそちらに向いてしまいますが、そうした時にもあえてましろさんに注目していると演技の丁寧さに惹かれました。

 

 

野口真緒さん演じる若汐。

花魁の中で一番好きでした。一番小柄で顔が小さくて少女っぽさを感じて、年季明けに至るまでの幸せそうな笑顔と、そこから一転しての狂気をはらんだ様な刃物の様な演技。その切り換えがとても素晴らしかった。

 

音羽美可子さん演じる つねさん。

この人もとても好き。人間っぽさを一番感じた。舞台上に出ないバックボーンの深さを一番感じた。そして糸里や寅吉に詰め寄る迫力。花魁たちの甘さを嘲笑う憎々しさ。そして守銭奴。男性キャラたちとは別の方向性でカッコ良さにあふれてた。

 

森田由美恵さん演じる しのさん。

何と言っても源蔵さんたちとの別れ。その前の段階で店の修繕(?)が終わって、今後の人生を祝福されて、死んだ息子の代わりの様な火消たちに囲まれて。その幸せが一辺にひっくり返って。

でも、人知れず死んでいくはずだったのを最後に火消たちともう一度会えて。源蔵の火消としての背中を感じて送り出す事ができて。しのさん、少しだけでも幸せな気持ちで満足して死んでいけたんだろうなと。

次の川手さんにも言える事だけど、若いキャストさんだけでなく、しっかりと経験を積んだ上の世代のキャストさんが彩りを添えると、舞台はバランス良く感じるなあと。

 

川手ふきのさん演じる おふきさん。

上記しましたけど、初日の時にはコミカルな描写があまり好みではないなと最初は思っていて。その多くの部分をおふきさんが担当されていて。でも、演技は上手いし、声もしっかり通ってるし、舞台上で凄い存在感がある。そして後半、母親として助六に真正面から向き合う場面。あの演技には圧倒されました。要所要所で場の空気を牽引していましたね。ある意味、三人目の主役と言えるかもしれません。

 

ダンサーの皆さん。

所謂アンサンブルの役割を担う皆さん。OPとED、そして劇中でのダンスシーン。遊女の衣装で華やかに絢爛に妖艶に舞う姿がとても素敵でした。この舞台での吉原の世界観を表現するのに一番効果的な演出だったと思います。ダンス以外でも花魁に付く新造とか、火から逃げる場面などで舞台上に多くの方が出ていました。

パンフでダンサーのお顔を確認しましたら、たぶん私が一番ダンスを観ていたと思うのは、ひなさんとKANAEさんでした。中央から下手側で観る事が多かったので、視点的によく目に入ってきたという事もあるのでしょうが、つい目で追っていました。

 

 

山下聖良ちゃん演じる お文ちゃん。

さて。お文ちゃん。女彫物師。言葉遣いは男っぽく荒く。喧嘩っ早い性格なのか殴ったり蹴ったりのアクションが目立つ。コミカルな場面も多く担当。幼馴染の政五郎と行動を共にしている事が多く、彼との口争いが絶えない。そして、本人は否定しているが、政五郎に恋心を抱いている事は周囲にバレバレ。うめ、さよ、ましろたちとの町娘四人の中で表面上は一番「強い」様にも思えるが、実は一番メンタル面で弱いキャラ。公演前に聖良ちゃん自身は「大江戸ヤンキー」と称してたのですが、実際に私が観ての印象は「ツンデレ」でした。

 

助六やおそめと同じ年だとすれば24歳で十分に大人の女性のはずなのですが…乙女でしたね。ここ最近、聖良ちゃんは『マーダーケース』や『ウソトリドリ 』などで大人の女性を配役される事が続いていて、それらの役では大きく感情を表現する事が無かったのですが、今回のお文ちゃんは体感的に若返った印象があり、感情もはっきりと表に出していますね。それがとても新鮮でした。特にそれがガツンと出ているのが大火に政五郎が出動しようとするのを引き止めるところからの一連の場面ですね。政五郎と離れたくない想い、今まで隠していた(あるいは、もしかしたら自分でも気づいていなかった?)政五郎への気持ちが溢れる様に出て、それに対して政五郎が今までにない真面目な姿勢で受け止めて、そして振り切って出て行く。残されたお文を叱りつけ、優しい言葉をかけるおふきさん。ここはもう最高ですね。そしてEDで無事を祈り続けるお文の元に笑顔で帰ってくる政五郎。前と同じ、でも距離は近くなった二人に戻ってくる日常。せつなくて、幸せで良かったです。

お文ちゃんと政五郎。この二人の関係性がとても好きです。

ツイッターで、おそらく女性の方の「お文ちゃんと政五郎の二人が好き」という感想をいくつも見かけて、私なんかが言うのも何ですが、聖良ちゃんのファンとしてとても嬉しいです。

聖良ちゃん自身もInstagramに「役と自分のイメージがかけ離れていて悩んだ」という事を書いていて、それでもこの役をやりたくて「頑張ります」と言ったと。

実際にファンから観てても、上記した様に「新鮮」な役でした。初日を観た後で、どの役がいつもの聖良ちゃんらしいだろうと少し考えてみて。うめちゃんも、さよさんも、ましろさんも、聖良ちゃんが過去に演じた役たちと照らし合わせて、わりと普通に想像できるんですよ。そう、お文ちゃんが一番しっくり来ない。だから、そのお文ちゃんという難しい役を、悩みながら、共演者の皆さんに支えていただきながら、しっかりと自分の役に仕上げて、千秋楽までの11公演を堂々と演じ切り、そして多くの観客に受け入れられ、好きと言ってもらえる。ファンとして、こんな素敵でありがたい事はないですよ。

再々演ですから、過去公演でお文ちゃんを演じたキャストさんたちとは役への解釈や演技表現も違っていると思うんですよ。でも、演技に正解は無いから。聖良ちゃん自身の今までのお仕事の経験値や、それこそ歩んできた人生がきっとお文ちゃんに反映されていて、聖良ちゃんならではの、他の誰にも演じられない聖良ちゃんのお文ちゃんとして舞台の上で全力で生きているんだなと。そして1回の公演が終わるたびにとても幸せな表情を見せてくれて。

舞台上のお文ちゃんは普段の聖良ちゃんとはもう顔つきから違っていて。初日でそれを感じた時はメイクの印象もあるのかなと思ってたのですが、カテコで再び姿を見せてくれた時には満面の笑顔でいつもの聖良ちゃんで。

本当に、良い笑顔だなと。今回も素敵なお仕事を観る事ができて私も幸せでした。ありがとうございました。

 

物販。

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パンフ。個別のキャスト紹介1ページの他、カップリング写真が2枚。かなり優遇されてる気がします。

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2枚組のキャストブロマイドは1種のみ。

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こちらはS席チケットの特典。公演回によってABCの3枠があるのですが、私が購入したS席は全部がA枠のみ。半ばあきらめかけていましたら、他のキャストさんのファンの方と交換していただける事になり、揃える事ができました。

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こちらはランダムブロマイド。全女性キャストのシャッフルの中から自分で選んで引くシステム。全4種のキャストさんもいるみたいなのですが、聖良ちゃんが全4種なのか、それともこの2種だけなのかはっきり確認できていません。全2種なら無事にコンプリートなのですが。

左はキャストブロマイドと同じに見えますが表情が違っていますね。右の立ち姿の方は自力で引き当てる事ができず、他のキャストさんのファンの方から御厚意でいただきました。ありがとうございます。

 

お花。

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今回も聖良ちゃん宛てにお花を贈らせていただきました。

この季節はやっぱり事務所にちなんで ひまわりだなと。それに赤やオレンジを混ぜてもらえて「火」をイメージされる様な感じになってますね。

いつもの様にスタンド花も検討していたのですが、運営からの案内で「スタンド花が多い場合は外に配置する事もある」と。実際、いくつかのお花が建物の外にありました。で、この猛暑の中での屋外はちょっとお花の寿命が短くなるかもと思い、涼しいロビー内に置いてもらえる様に、今回は小さいアレンジメントにしました。

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そして、今回も聖良ちゃんは宛て札にサインとメッセージを書いていただけていました。ありがとうございました。