さっそく観てきました。少しネタバレあり。知りたくない人は注意。
アカデミー8部門受賞作。その内訳は「監督賞」「作品賞」「脚色賞」「撮影賞」「編集賞」「録音賞」「作曲賞」「主題歌賞」。
物語は、スラム育ちの青年がクイズ番組に出場し、勝ち続ける。イカサマを疑われ警察に尋問される。そこで彼は正解を答えられた理由、自分の過去の経験を語る。そんな話。


面白かったのは確かです。でも、他の作品を圧倒する程に突き抜けていたかと言うと、私はそこまでとは思いませんでした。
映像は素晴らしいですね。スラムを筆頭にインドの雑多感、ゴミゴミした汚さはインパクトありましたし、その反対にタージマハールを映して時間の経過を表現したカットの美しさ、スタジオの虚構の綺麗さなど、映像的にもメリハリが効いてました。音楽も良い。インドを舞台にした映画は『ムトゥ 踊るマハラジャ』くらいしか観た事が無いのですが、あれに近い独特のリズム感は、受賞するレベルなのが納得できます。
スラムの生活、宗教間抗争の不条理さ、下層階級を利用する組織、そして犠牲になる子供たち、警察での拷問。インドの醜悪で救いの無い社会が描き出されている映像群。観客を一気に作品に引き込むパワーがあった。


主人公が正答できた理由。観るまでのイメージは、様々な経験を積んだ主人公が結果的に高学歴な知識層を凌駕するほどの博識になっていたんだと思っていた。ところが実際は偶然に知っていた問題が出題されただけ。もし違う問題が出題されていたら答えられなかったんだと。この点に関しては、物語が進むにつれて、御都合主義的な展開、物語のために用意した問題的な印象を強く感じ、脚本的には弱いと思った。リーチ前の2択もそうだし、最後の問題もね。
最後の問題は簡単すぎない? 『三銃士』の三人目って。日本人だから簡単だと感じるのかもと思ったけど、主人公は幼少時に、学校(?)で出題ネタの絵本に接しているからさ。つまりインドの子供は知っていてもおかしくないって事じゃないのかな?
で、その問題を解答する時にテレフォンを利用する(TVCMに使われているシーン)んだけど、そこでヒロインが答えて劇的なハッピーエンドだと思うじゃない。幼少時、ヒロインを仲間に迎え入れる時、彼女の事を『三銃士』の三人目に例えていた訳で。主人公と兄は三人目の名前を知らなかったけど、ヒロインはその時のエピを踏まえて、後で調べていたとかさ。それが定石だと思うんだけど、知らないとはね…で、結局は運任せで正解。
物語の最初で「彼がなぜミリオネアになれたか?」と出題され、最後に「D、運命だった」と表示される。だから、主人公が正答し続けられたのも、そういう事なんだろう。知ってた問題が出た事も、運任せの解答も、特別な理由なんて無く、主人公がそういう運命だった事。まぁ、主人公は金銭欲のために出場した訳ではなく、だからこそ正答する事は画面に長く出ていたかったため、ヒロインが番組を観ている事を信じて…だった訳で。それで神様が運命をいじってくれたのかなと。私はそう解釈しました。


作品全体を考えると、やはり少年時代までの方が完成度も物語の質も高いと思う。主人公がムンバイの街に戻り、ヒロインと再開し、そして再び引き離される場面まで。ここがピークかなと。それ以降のシーンは、あまり高く評価できないかな。まぁ、ハッピーエンドとインド映画ならではのダンスシーンは良かったと思うけどね。
私としては、10点評価で8点かな。


「ミリオネア」の司会者。偽善的で腹黒で味がある演技だった。このキャラを観てしまうと、みのもんた氏が今まで以上に悪党に見えてしまうね(笑)。


パンフレットの後ろの方にH.I.Sのインドツアーの広告が載っていた。でも、この作品の中のインドって、汚い所、危険な所ばかり。これ観てからインドに行きたくなる人がいるとは思えないんですけど。